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　女の子達の和の中で、ひときわ甲高い声でしゃべっているのが井上雪子だ。ショートカットで元気な井上は、誰に対しても遠慮がない。「今度みんなであそこへ行こう」「どこそこの店はおいしい」「隣の組の○○君はカッコいい」といった話をしょっちゅうしている。
　僕は席が近くて、結構話を良くするので、「もしかしたら僕に気があるんじゃないかな」と希望的観測をしたりもするのだが、井上は誰にでも気安く話しかけているので、それは本当に希望なのだ。そして、気があるのは実は僕の方だったりする。
　井上は、クラスの男子に人気がない訳ではないが、沢木和江のように優等生ではないし、美人と言ったタイプではないので、いわゆる「憧れの的」ではなかった。僕としては沢木のような優等生のお姉さんタイプより、井上のような元気でかわいいタイプの方が、好みなのだ。
　ただ、井上に気のある素振りでもしようものなら、「松口君、私のこと好きなの！？」と大声で言い出しそうで、想像するとちょっと怖いものがある。井上は、思っていることを心に留めておくことができないのだ。それがいいところでもあるんだけど。